(一)

暗闇が言った。

「意見を聞かせて」

室内が暗いといっても、顔が見えないわけではなかった。空の青が、あまりにも冴えわたっていたからだった。

暫(しばら)くして、大利家戸清一(おりけどせいいち)が徐に(おもむろ)口を開いた。

「難しい事件のようですね」

「それで……」

難しいのは分かり切ったこと、その先が聞きたいのだ。

「二つの殺人事件が、単なる殺人だとはとても思えない。組織ぐるみ、とてつもなく大きな組織が関係しているような気がする」

清一は、そこまで言ってからコップを引き寄せた。そして、大きなコップに入った水を少しだけ口に含んだ。

「何故、そう思うのかしら……」

窓の外は、涼しげな緑。しかし、テーブルのランプは、灯ったままだ。ここには、昼の眩しさから隔離された空間があった。

「一人は飛行機を降り、空港を出ようとしていて救急搬送されたんですよね。もう一人は、ホテルに着いてから……。薬物が検出されなかったとしても、その他の殺害方法は考えられない」

「殺害は、飛行機の中で行われたと断定していいんでしょうか」

たまらず、若い男が口をはさんだ。

「それ以外には考えられない。被害者が全く組織と関係なかったとしても、ターゲットにされたとみておくべきです」