そう言うと、一夏は南側の窓に鼻がくっついてしまうほど顔を近付けた。遠くの海上に赤、青、黄、緑色の無数の菊花のような花火が次々に打ち上げられ、暗い部屋の中までドンドンと音が鳴り響いてくる。海智は彼女の隣に立ってしばらくの間その美しい光の炸裂を鑑賞した。

彼は時々花火の光で照らし出される一夏の横顔を見た。茶色に染められた繊細な髪の毛の一本一本や、本人が気にしているという鉤鼻すら彼には愛らしく見えた。ひたすらに花火を見つめるその大きな瞳に色とりどりの光の粒子が現れては消えていく。幻想的な彼女の姿に陶然となり、彼は遂に決意した。

「一夏」

「ふん?」

「俺、お前のこと・・・・・・」

その時だった。誰か男が大声で何かを叫んでいるのが聞こえ、二人の時間は強制終了となった。

「おいっ、誰か来てくれ!」

二人は驚いて外に飛び出した。右手に続く廊下の奥に見える四一四号室のドアが開いており、その入り口に立つスーツ姿の大男が声の正体だった。その顔は強張り、蒼褪め、額に冷汗を大量に掻いている。二人が走っていくと、四一六号室から金清も飛び出してきた。

「どうした?」

金清が男に問いかけた。ボディーガードは震える手で部屋の中を指差した。

「漣さんが・・・・・・」

次回更新は6月15日(日)、11時の予定です。

 

👉『眠れる森の復讐鬼』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】マッチングアプリで出会った男性と夜の11時に待ち合わせ。渡された紙コップを一気に飲み干してしまったところ、記憶がなくなり…

【注目記事】服も体も、真っ黒こげで病院に運ばれた私。「あれが奥さんです」と告げられた夫は、私が誰なのか判断がつかなかった