金髪に染めたロングヘアの女性で、黒のTシャツにベージュのショートパンツを身に着けていた。特に彼の好みのタイプだったというわけではない。服から出ている腕や脚が骨と皮だけでできているかのように異常に細かったのである。

「どうしたの?」

一夏が不審げに訊ねた。

「あの人は?」

「ああ、個人情報だからあまり言っちゃいけないんだけど、あの人神経性やせ症なの。あんなに痩せているのに自分が太っていると思い込んで、食事を殆ど取らないのよ」

「へえ、よくあれで歩けるね」

「それがもっと痩せたいもんだから毎日階段を何回も往復しているのよ。私のお肉を分けてあげたいくらいなんだけどね」

二人は看護師に見つかることなく四一八号室に戻ったが、海智は顎に手を当てて考え込んだ。

「待てよ。あの人が歩けるくらいなら、梨杏もやっぱり歩けるんじゃないか?」

「またその説? 確かに脚が細くても歩けるとは思うけど、梨杏は昏睡状態なのよ」

「そうか。でも何か引っかかるんだよな・・・・・・一夏、梨杏はいつも点滴しているよね。あれは何の点滴?」

「ただの補液よ。経管栄養の人は水分が足らなくてすぐ脱水になっちゃうのよ。ねえ、海智、今だけは事件のことは忘れない? せっかくの花火なのに」