【前回の記事を読む】花火大会で高校生の時に仕立てた浴衣を着るのを楽しみにしていた全身火傷で昏睡状態のいじめ被害者
眠れる森の復讐鬼
「経子さん、ごめんなさい。私、梨杏に何もしてあげられなくて・・・・・・私がもっとしっかりしていれば梨杏はこんなことにならずに済んだのに・・・・・・」
「もういいのよ。一夏ちゃんみたいないい友達がいてくれて梨杏は本当に幸せだったと思う。それよりマスコミが騒いでいるみたいだけど心配しないでね。きっとすぐ疑いは晴れるから」
「ありがとう」
それからしばらくして外でドンという大きな音が鳴って、部屋の中まで振動が伝わってきた。海智が南側の窓から外を覗くと、夜空に飛び散ったオレンジ色の光の破片が既に柳の葉のように落ちかかり、暗い海面を照らしているところだった。
「始まった」
一夏も窓際に近付き、外を覗き込んだ。経子がその後ろから声を掛けた。
「二人ともごめんなさい。せっかく来てもらったのに悪いんだけど、花火は二人だけで静かに楽しみたいの。小瀬木君の部屋からも花火は見られるのよね。そっちで二人でゆっくり楽しんで」
「ありがとうございます」
海智にとってみれば経子の提案は渡りに船だった。梨杏には悪いが、頃合いを見て自室に引き揚げたいと思っていたところだった。
二人が四〇二号室を出ると、廊下左手突き当りの全面ガラス張りの前に五、六人の入院患者が集まって、花火を見物しているところだった。殆どの病室からは花火が見えないのでここに集まっているらしい。さらに廊下の右側からやってきた数人の新たな見物客と二人はすれ違ったが、その内の一人の女性にふと目が留まり、海智は振り返った。