立ち泳ぎのまま、腰まで浮上し、弓を射るらしい、古式ゆかしい古典的な水軍の泳法だった。

母親のお爺様は、老いていても、目にも止まらぬ速さの居合抜きが得意な、最後の侍で、奥方からは、御前と呼ばれている。

疎開中、お爺様の住む武家屋敷で暮らした事で、孫娘に当たる母親は、武家のお爺様の影響を強く受けていた。そのために少し時代錯誤の感は否めないが、娘のたかちゃんには、時に厳しいが、普段は優しい母親だった。

そして、たかちゃんには、可愛い妹のちいちゃんがいる。

ちいちゃんは、少し人見知りをして他の人には懐かない。いつも姉のたかちゃんにしがみ付いて、離れてくれなかったが、だが一番可愛い妹でも有った。

姉のたかちゃんが、一日お出掛けしていないと、夜に外まで飛び出して、「たかちゃん、たかちゃん!」と、探し回る事が有ったくらい、姉のたかちゃんを独占していた。

「ねえねえ、ちいちゃん離してよ」

「いやだ、いやだ! 離れないもん!」と、ちいちゃんは、姉のたかちゃんにコバンザメのように張り付いて離れない。遊びうなだにも行けずに項垂れるたかちゃん。こうなるともう、ちいちゃんの天下だった。

無抵抗の姉のたかちゃんを連れ回す幼い妹、それを周囲の大人たちが目を細める。そんな風に、微笑ましい仲の良い姉妹だった。

 

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