まず目に付いたのが背の高さ。二メートルはあろうかという長身。そんな訳はないがな! 高いヒールを履いているからそう見えるのか。いずれにしろ百七十センチくらいはある。喜之介が身長百六十五センチなので、それよりは高い。理想的な形の面長な顔に、パッチリとした大きい目、すらっとした鼻筋。その下に綺麗な歯並びの口が配置されている。
これは美人だ。落語の世界ふうの表現でいうと「えらい別嬪さん」だ。別嬪さんは別嬪さんなのだが、それだけでは彼女を表現しきれていない。むしろ誤解を生む。そこに「派手」という言葉が必要だ。そう、美人で別嬪さんではあるのだが、そこには人工美を思わせる派手さがあった。
必要以上の巻き髪。大きな目も、よく見るとアイシャドーによる大いなる援護がおこなわれている。しかもピンクのブラウスに鮮やかな花柄のミニスカート。偏見が交じっているのかもしれないが、喜之介にとっては夜の世界の女性というイメージだ。
若い頃は落語会の打ち上げの後、キャバクラと称する店に行ったこともある。そこで出会った女の子によくいたタイプだ。
噺家仲間には当然、そういう女性たちとの親密さを自慢する者も複数いるが、喜之介は除外される。どちらかというと清楚なタイプの女性が好き! 今、自分の女性のタイプを確認している場合か!
とにかく、目の前に出現した若い女性は喜之介とは住む世界が違うし、普通なら接点がないタイプの人間だ。そんな彼女が弟子入り志願者? おいおい! 話が違うやないか! 三人目の弟子入り志願者が来るとしたら? 勝手な想像の範疇には、このケースは含まれていなかった。
三十代、四十代ときたから五十代? 一気に年を重ねて老人? 逆に若返って子供? そこまで飛躍して想像していたが、年齢ばかりを気にしてしまい、女性がやってくるとは思わなかった。意外な弟子入り志願者の登場に喜之介は驚くばかりだ。
私が誰だか分かっているのか? これまではそれを確認する質問をしていたが、今回は彼女のほうから既に本人確認の質問がなされていた。自分が喜之介ということを分かって弟子入りを志願しているのだ。どういうこと? 訳が分からない。
「ダメ?」
彼女が聞いてくる。ため口だ。
「いや、そのう……」
しどろもどろは致し方ないでしょう。
「ダメなの?」
甘い声で聞いてくる。