【前回の記事を読む】私の妄想が現実になっている…だとすると、あれ…? 私はあのとき、何を考えた? ──「彼氏が、怪異に触れて、〇ぬ。」

創作実話 沢市 さとみ

上半身全体を使って振り返り、私はゆっくりと進んだ道を引き返した。壁のモニターを表示させる。粗いモニターの画面に髪の長い女が映っている。飯島さんは引っ越した。

モニターの前で固まる私の耳に、信じられない音が玄関とモニターから同時に聞こえてきた。

がちゃり、と鍵を開ける音だ。

「嘘……」

人がいなくなったモニターを見て震える私の横に、白い服の女が立った。

「あ!」

いけないとわかりながら、腰が砕けてしまった。力が入らない。大柄な女が進んでくる。後ずさりながら私は眉を顰(ひそ)めた。

「あなた……」

女がにやりと笑いながら髪をかきあげた。見覚えのある笑顔だ。彼は、引っ越し当日私の荷物をせっせと運び、霊の噂をほのめかした青年である。

「怖かったっしょ?」無邪気に言う。