【前回の記事を読む】霊が出ると噂のホテルで、白い服に着替えた…長い黒髪のカツラを被り、包丁を握りしめる。その瞬間、部屋の前で人の気配が…
聖地消滅 葛西 竜哉
「えっ、何あれ!」
晃司の存在に気がついた女の子が大声で叫ぶ。
「う、うわぁぁあああ」「きゃぁああああああ」
「逃げろ!」
四人は一斉に階段に向かって走り出した。
晃司は包丁を振り上げて、四人を追いかける。
「う、うわぁぁああああ」
四人はすごい勢いで階段を駆け下りて行った。晃司が階段まで辿り着いたとき、四人の姿はなく、代わりに赤い服を着た女が、階段を上がって来るところだった。
一目見ただけで、それが生きた人間でないことが分かる。
「えっ?」
晃司は背筋が凍りつき、心臓がバクバクと早鐘を撞く。こんなことは生まれて初めてのことだ。
「嘘だろ?」
晃司は建物の反対の階段を目指して走り出した。
「お、おい!」
突然走り出した晃司に、何が何だか分からないまま、動画を撮影しながら義之も後を追う。反対側の階段まで走って来た晃司の足が止まった。
さっきの女が、階段を上がって来ていたのだ。晃司はまた来た方向に取って返す。
「お、おい、晃司!」
呼びかける義之を無視して晃司は走った。しかし、建物の真ん中で立ち止まる。
最初の階段から上がって来ていた女が目の前にいたのだ。振り返ると、そちらにも赤い服の女が。
──挟まれた!
晃司は咄嗟に、開け放たれた部屋に向かって駆け込んだ。
しかし……そこには地面がなく、晃司は真っ暗な闇の中へと落下していった。
「ぅぅぅうう」
晃司は目を覚ました。
「こ……こはどこだ」
真っ暗な場所に、僅かばかりの陽の光が差し込んでいる。
「あっ、そうか」
晃司は思い出した。昨夜は義之と二人で、ホテルオオツに動画の撮影に来ていて、赤い服の幽霊に追いかけられ、逃げ込んだ先が真っ暗な開口で、そのまま墜落してしまったのだと。
ただ、三階から墜落したにしては、身体はどこも痛くない。
「って言うか、義之は?」
義之に限って、よもや穴に転落した自分を置き去りにして、帰ってしまうとは考え辛い。
「まさかあの女に……?」
嫌な想像が頭を過(よぎ)る。
「えっ……」
視線の隅に赤いモノが見えた。
「嘘だろ……」
晃司は恐る恐るそっちに顔を向ける。
──が、そこには何もなかった。ホッと息を吐いてゆっくりと身体を起こす。
「余計なことを」
目の前で赤い服の女が呟いた。
「お前のせいで……ここは……」
「ひぃいいい」
恨めしやとは言わなかったけれど、女の顔は晃司を恨んで睨みつけている。
「た、た、助けてくれぇ」
晃司が恐怖で目を閉じた瞬間、今までに体験したことのない轟音に、晃司の身体が震えた。