クリムゾンの糸 兎太郎

「おかしいな……また迷ったかな」

目的地までの道のりは駅舎前から北に進み、やがて現れる広大な芒野(すすきの)のあぜ道に入る。

宗方巽(むなかた たつみ)はつるべ落としの夕陽の中、一面枯れ尾花の海で立ち往生してしまった。

「困った。暗くなる前に教授の別宅に着きたかったのに」

堂本教授は主に儀礼や信仰などの伝承資料を紐解く、民俗学の権威だ。巽はその助手を務めている。

文明開化と称し科学や合理性を謳う時代も早や二代目。だが受け継がれてきた儀礼・信仰が廃れる事はない。

五穀豊穣を願う神楽やゲン担ぎなどもその一つで、願うという心の力を具現化してくれる術式なのだ。巽はこの研究に心血を注いでいる。ふと顔をあげると、郊外には不釣り合いな洋館が芒の向こうに見え隠れしていた。

「あった。なんだ、間違ってなかったのか」

今日こそはなにかしらの進展がある、そんな気がしていた。

これまでは巽の申し入れを無視していた教授が、急に『別宅で一緒にキジ撃ちをしよう』と誘ってくれたのだから。

さわさわと道を示すように同じ方向へ穂先が流れてゆく。

やがて堂本家の敷地が開け、門代わりとなる大きな楠を流し見て巽は凍り付いた。

「……っ!?」

楠の枝で白い前掛けを付けた女が首を吊っている。

「巽さん?」