「あんたの妄想。現実にしてやったよ」白いドレスのポケットから包丁を抜きだす。既に赤く濡れそぼったそれに、私は甲高い悲鳴を上げた。青年が愉快そうに私に馬乗りになる。

「あれこれ想像働かせてたから、どうせなら死ぬまでに楽しませてやろうってな」反対の手で彼が手に持ったスマホを左右に振ると、赤子の泣き声がした。

「死ぬまで……って。あなたなの? 女の人殺したの」

「そうだよ? ひとり暮らしの女の部屋盗聴するのも忍び込むのも簡単だ。ビビッちゃって最高」

「ああ、篤も! 飯島さんのことも!」

「はあ?」

かつらとスマホを床に放り出し、青年が包丁を構えた。人はどうして、目玉が落ちそうなほど目を剥いて嗤うのだろう。

物事には必ず原因があり、結果がある。これはホラーではない、篤の言うとおりだ。私の首に刃物の切っ先があたる。しかっと熱い。体中の血が叩き起こされて逆流する。荒い息遣いで見上げる青年の背後に、天井が見えた。あんな黒い染みあったっけ。

円形に、どんどん広がっていくのは私の目が霞んでいるから。黒い染みから、額と、顔が現れる。苦しそうに捻りながら、肩と腕も抜かれた。首がぱっくりと裂けた女性が、青年に手を伸ばす。青年は私に夢中で気づかない。どんどん伸びる、どんどん伸びる。青年が振り返った。

   

「おっぷ、う、るるぅあ」