【前回の記事を読む】北緯66度33分以北の地域で「北極圏の国」と言われているアイスランド。グリムセイ島は「北極圏到達証明書」を求めて観光客が増加中…
第1章 自然・地理
将来、北極圏から外れてしまう国
旅行記や旅行ガイドを読むと、空港から出て北に進むと、すぐに北極線を示したモニュメント(7トンのコンクリート製の球体)を見つけることができ、旅行者の定番の写真撮影スポットになっている様だ。
因みに、そこでは世界各地への距離が示されており、首都レイキャビクまでは直線距離で325km、東京までは8494kmとのこと。筆者もアイスランド滞在中に是非現地を訪れたいと考えていたが、結局訪問機会を逸してしまった。
気になるのは、以前目にしたレポート注1で、それによると、グリムセイ島を通過する北極線が、1年あたり14.5mの割合で北に移動しており、2047年にはグリムセイ島の北端から離れてしまう、つまり北極圏外になってしまうということである。
北極線の位置は赤道傾斜角で決まるが、この赤道傾斜角が月の引力による潮汐力等により長周期で変化する為、北極点・北極線の位置も徐々に移動するのだ。2047年にアイスランドの国土が全て北極線の南に位置することになれば、その時点でもはや「北極圏の国」ではなくなってしまうのであろうか?
森らしい森がなくなった国
アイスランドのジョークの中に、「アイスランドの森で迷子になったらどうすべきか?」「立ち上がればいい!」というのがある。
その背景には、森と言えるほど樹木が生い茂った場所が極めて少なく、樹木があっても低木が多く、見晴らしが良いので迷子になり得ない、といった事情がある。実際、アイスランドは欧州で最も森林の少ない国と言われる。
その理由として、地質学的に、国土誕生(海底火山が隆起し陸地を生み出して)から1600万年(地球誕生は46億年前)しか経っていない若い土地ゆえ森林が育つ充分な環境が整っていない、厳しい気候に加え活発な火山活動の影響で、火山灰や溶岩が植生をすぐに覆ってしまう、といった説明をしばしば受ける。
しかし、実際にはこれらは誇張され過ぎで、現在のアイスランドには森と言える場所もない訳ではない。実際、政府の森林サービス局(IcelandicForestService)によれば現在26の森林が国内で指定・保護されている。
また歴史的には、9世紀後半にヴァイキングが入植するまでは、国土の35%が森林で覆われていたとも言われ、それを裏付ける証拠も出てきつつある。数年前に、国内最大の氷河、ヴァトナヨークトル氷河の近くから、3000年前の「木の切り株」が発見されたのだ注2。
長く氷河に覆われていたお陰で、保存状態は極めて良く、周辺の地質調査結果も踏まえると、3000年前当時、アイスランド国土は森林で覆われていたとのことだ。