専門家によれば、ヴァイキングの入植から始まり、その後人口増加が進むにつれ、薪の利用、鉄の生産の為の木炭の利用、牧畜の為の火入れ、羊の飼料としての葉の利用、等々によって森林の伐採が進み、結果的に1990年時点の国土の森林率は1%を下回り、今では僅か0.3%にまで縮小している。
政府はおよそ100年前から森林を再生させるべく植樹・植林を推進してきたが、100年間で植樹出来たのは国土全体の0.4%程度で、この調子で今世紀末まで継続しても、せいぜい4~5%程度に止まるだろうと予測されている。
特に難しいのは、アイスランドの土壌には窒素含有量が少ない為肥沃化がなかなか進まず、木々の成長速度も極めて遅い様だ。自然を再生することが如何に難しいことか!
因みに、筆者が駐在中、東部アイスランドに出張した際に、エイイルススタジール(Egilsstaðir)の近郊で国内最大規模の樺(カバ)の森林地帯を目にしたことがある。
樺と言えば、著名歌手のビョークの名前は、アイスランド語で「カバの木」を意味し、彼女自身も、自然を復活させる為の懸命な植林活動を行っているそうだ。
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夏を青紫色に染め上げるルピナスの花
他の欧州諸国と比較すると格段に植生に乏しいアイスランドだが、夏の景色を美しい青・紫に染め上げてくれる花がある。その名はルピナス(Lupinus)。日本語名はハウチワマメ。
また、花の様子がフジに似ており、花が下から咲き上がる為、ノボリフジ(昇藤)とも呼ばれるそうだ。

アイスランドでは古くから植物学者が、どんな木や植物・花が低温の気候の下でよく育つか研究を重ねており、ルピナスは1945年に当時の林野庁関係者がアラスカの氷河地域から種を輸入し栽培を始めたところ、あっという間に全土に広まった由。
土壌侵食を防いだり、土壌を固めてくれる効果がある為、幹線道路沿いに特に多く見られる。もともとモノトーンな荒野だった場所を、6月~7月の間、青・紫の美しい花畑に変容させてくれるのはなかなかの眺めであり、個人的にも一面が青紫の花で埋め尽くされる風景に夏の到来を実感していたものだ(写真13)。
一方で、その驚異的な繁殖力の強さの為に、成長の遅いアイスランドの在来種を駆逐しつつあることが、自然・環境専門家の間で問題になりつつある。
注1 “Grímsey Island, e Arctic Circle” by Akureyrarbær https://www.akureyri.is/grimsey-en/moya/news/the-arctic-circle
注2 “3000-Year-Old Trees Excavated Under Glacier” by Iceland Review, December 4 , 2017
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