「Bravo(ブラボー)」という名のイタリア料理店は最近オープンしたばかりだが、店の中に備え付けられた大きな石窯でピッツァを焼いて、出来立ての熱々を客に提供することで評判の店だった。

シェフ自身もイタリア人で、本場イタリアから直輸入した食材をふんだんに使って作られる料理はどれも本格的で美味しいと、オープン当初から予約が取りづらいほどの繁盛ぶりだった。

仕事帰りの谷口はいつものスーツ姿だが、今夜は珍しく緑色のポケットチーフを胸元から覗かせている。

栞は仕事帰りの谷口と待ち合わせる時は、決まってシンプルできちんとした印象のスーツやワンピースを選んだ。どんな店に行くにしてもカップルとしてのバランスは大事だし、谷口のパートナーとしてふさわしい装いを心がけているからだ。

「あぁ、うん、やっぱりこうして並んでみると二人は本当にお似合いだわ」

美香の満足気な言葉に、谷口も嬉しそうに笑っている。

けれど、本当に「お似合い」なのは美香と老舗和菓子屋の三代目社長の方だと栞は思っていた。美香の話によると、彼の父親の代で本業の和菓子屋に留まらず不動産事業にも手を広げたことが功を奏し、今では都内にいくつかのビルを所有して随分と羽振りがいいらしい。

美香が今夜履いている黒のワイドパンツは、きっとフランスのハイブランドのものだろうと、その仕立ての美しさから栞は見当をつける。

この前の誕生日に彼からプレゼントしてもらったと嬉しそうに話していたのは、このワイドパンツのことに違いない。白のショート丈のジャケットとのバランスもいい。

今夜、美香の持っているバッグも同じブランドのものだ。一目でそれと分かる定番の黒は選ばず、デニムタイプを持つところがいかにも美香らしい。ハイクラスのブランドの洋服を堂々と着こなして、本物のモデルみたいに華やかに振る舞う美香とは、一緒にいるだけでこちらの気持ちまで明るくなる。

すると不思議とどんな望みだって叶ってしまいそうな強い気持ちが湧いてくるのだ。周りの人を元気にさせる特別な魅力が美香には備わっていて、誰だって美香のことを好きになってしまう。

お姫様への貢ぎ物のように贅沢なプレゼントを贈れる人が、美香にはお似合いだ。

「美香たちの方がずっとお似合いよ」

栞の声は少し小さくて誰の耳にも届かなかった。

次回更新は5月15日(木)、21時の予定です。

 

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