俳句・短歌 短歌 故郷 2020.08.28 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第8回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 快晴よスカイブルーの広がりを 宝物として仰ぎ見る哉 近隣の実が着き熟す柿の木に 雀舞い降る秋景色哉 マンションのビルより覗く碧き色 狭き空間に雀ら遊ぶ
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『鼠たちのカクメイ』 【第8回】 横山 由貴男 「大塩先生もおまえのと同じ銃をお持ちだ。名手だから、あとで教えてもらうといい」どんなひとなんだろう?大塩平八郎って。 天保七年(1836年)十月。意義とカイのふたりは、ひと月かけて江戸から大坂へ辿り着いた。現在の大阪市北区天満、桜の名所で知られる造幣局のある地域だ。そばには大川が流れている。意義たちは目的地に向かう途中の川崎橋から、河原で繰り広げられる非日常的な光景を見た。橋の上には見物客もまばらにいる。「あれは一体何ですかな?」旅商人らしき者が通行人に訊く。「ああ。洗心洞の砲術訓練ですわ」と事もなげに言うから…