【前回記事を読む】転勤するも簡単にはいかないニューヨーク生活。泥沼化したベトナム戦争の陰湿なエネルギーが流れ込む町では、銃声を聞くことも。
序章 ローマの流行作家 自信家たちのエピソード
ナルシストたちのエピソード
ニューヨークベースからは、ヨーロッパ、アフリカ、南米、カリブ海の島々など、ほぼ世界中の諸都市に飛ぶことができます。
私は、このニューヨークのベースから何度もローマに飛んだおかげで、イタリアの素晴らしさに開眼することになるわけで、そう考えると、イタリアが大好きになったのは、ニューヨークのお陰といえるかもしれません。
何しろ長い間憧れていたマンハッタンに失望して、ホームシックとメランコリックな気分に落ち込んでいるとき、ローマ行きのフライトに乗務したことが縁となり、すっかり魅了されてしまったのです。
ニューヨークの殺風景なビル街、騒々しい街路、汚い地下鉄、街ですれ違う人たちも冷酷で不愛想に見えました。タクシーに乗っても、運転手とは金網越しにやり取りします。私はすっかり怖気づいてしまったのです。
そんなある日、私はローマ行きのフライトに乗務しました。ニューヨークの暗く殺風景なビル街に比べると、チョコレート色に輝く明るいローマの街並みが何と美しく見えたことか。
空港から市内までの一時間ほどの間、私はリムジンバスの車窓から見えるローマの暖色系でゆったりくつろげる風景に癒されました。
いさかい、怒鳴り合いが日常的な大都会からローマに飛んでくると、まるで楽園に降り立った解放感に包まれたものです。
道端のカフェで、カプチーノを飲みながら新聞を読んでいる物静かな老紳士。満面の笑顔でハグしながら挨拶を交わしている男性たち。身振り手振りのオーバーなジェスチャーで話し込んでいる人々……。
どの人たちも底抜けに明るく開放的です。誰もが生活を楽しんでいることが分かります。タイムトンネルを潜り抜け、まるで別の世界に迷い込んだような錯覚すら覚えました。
イタリアへ行くと、私のホームシックは完全に癒されました。その頃、ホームシックのあまりアラスカのフェアバンクス経由で、東京に飛ぶコースをチョイスすることが多かったのですが、イタリアの素晴らしさに傾倒して以来、もっぱらイタリアにフライトするようになりました。
それから何十年というもの、イタリアの魅力に取りつかれたままなのです。
日本は昨今、イタリア・ブームといわれています。イタリア旅行を思い立って、成田から飛行機に乗ると、若い人たちでいっぱいです。
修学旅行で、イタリアを選ぶ学校も多いそうです。グルメ、ショッピング、遺跡と、見所もいっぱいなのだから、若者に人気が出るのも当然でしょう。
私のイタリア開眼は、ニューヨークに対する反感の裏返しだったのですが、そんな理由がなくても、いずれきっと好きになったに違いありません。