なんだ、この探るような聞き方。なかなか本題に入らない支店長の話し方に、僕の緊張はどんどん高まってくる。
「実はな、この支店の売り上げ目標だが、このままだと厳しいんだ。会社としては、正直、売れていない営業マンを置いておけるほど余裕はない」
胸の鼓動がさらに早くなり、急に視界が狭くなった。これって、クビって事か? それは困る!
「すみません、今月は必ず契約しますので、この会社に残らせてください」
「気持ちはわかるんだが、営業という仕事を選んだ以上、数字は必ず求められる。お前もそれぐらいの事はわかってるだろ?」
武田支店長が眉間にシワを寄せてまっすぐとこちらを見つめてくるので、僕は耐えきれずにその眼力から目を逸らしてしまった。
そんな事知らなかったよ。数字を上げなきゃ上司から詰められるのは知ってたけど、まさかクビだなんて。契約できてなくても大して焦っていなかった今までの自分に無性に腹が立ってきた。
「申し訳ございません。でも、僕はこの会社が好きです。この関西ハウス販売の家が本当に好きなんです。ですから、もう一度チャンスをいただけないでしょうか!」
勢いよく立ち上がったので、椅子が壁に激突して、ドンッと大きな音をたてた。そして額が机に付くぐらい頭を深く下げて懇願した。
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