【前回の記事を読む】売れない営業マンの僕が、梅田の小さなバーで答えをくれる男と出会い、物語が静かに動き始めた
師匠との出会い
深刻な話が笑いに変わり、マスターも一緒に声を出して笑った。少し話しただけでわかる。この人は只者じゃない。なんというか、この場を支配している感じがする。
「そうなんですよ。だからお願いします。僕に営業を教えてください!」
この状況を変えられるのなら、どんな人にだって頼み込んでやる。営業の経験が五年あるとはいえ、このままじゃ次の会社にいっても役に立たないのは目に見えている。
僕はカウンターの椅子から降り、初対面の金光さんに深々と頭を下げた。
「俺が教えるの? 俺よりも会社で一番売れている営業マンに聞いた方が絶対いいよ。まあ、みんなそれができないんだけどね」
金光さんは少し困惑気味に返事をした。
「一番売ってるやつを見返したいんです。でも、そいつにだけは絶対に教わりたくないんです!」
「どうして? 斎藤くんのプライド?」
「……そいつに、彼女を奪われたんです」
「え、そうなの? じゃあその人には教えてもらいたくないね」
金光さんはそう言うと、がはははと大きく笑った。なんだか面白がっているようだ。
「だから、金光さんにお願いしたいんです。売れるようになるためだったら何でもします」
僕の本気が伝わったのか、金光さんのから笑顔が消えた。
「そうか。わかった。売れるようになるには、あるものがなくちゃならない。それが何だかわかるかい?」
「売れるようになるには……、気持ちですか?」
「まぁ、気持ちも確かに大事だけど、要は『覚悟』だよ。営業にしろダイエットにしろ、目標を達成する時には必ず試練が訪れる。楽をしたいという自分の弱さだ。そいつに打ち勝つためには、不屈の信念、覚悟が必要なんだよ」