【前回の記事を読む】「治ったでェ」その言葉だけで病気を治したように言う住職。当然、怪しいと思って疑っていたが……。

第一章 夫の脱サラと妻に起こった不思議なこと

神名(しんめい)

何しろ三日後に手術を控(ひか)えた状況の中での大阪行きで、しかも、大阪では夜通し話していたこともあり、明日の手術に備(そな)えて今夜は眠らなければと思ったのだが、この日の夜もほとんど寝付けないまま朝となった。そのまま私は一人で病院に向かった。 

(なお)ったでェ」

するとまたもや、想像を絶(ぜっ)する事態(じたい)が待ち構(かま)えていた。

手術の前の診察(しんさつ)を終えた担当医(たんとうい)の様子が明らかにおかしい。今、私の診察(しんさつ)に使ったばかりの機械(きかい)を、エンジニアさながらに四方八方(しほうはっぽう)くまなく点検(てんけん)している。カルテも何度も見(み)返(かえ)している。担当医の動揺(どうよう)が私にまで伝わってくる。

隣(となり)に立っていた看護師までもが慌(あわ)て出したのが見て取れる。担当医は何度も首を傾(かし)げながら、あたかも観念(かんねん)でもしたかのように、遂に口を開いた。

「○○さんも一緒に確認(かくにん)をされ、その時点(じてん)では筋腫(きんしゅ)は確かに有ったのですが、今は何故(なぜ)か無いんです。機械の確認もしましたが、機械の不具合(ふぐあい)でもなさそうです。こんなこと有り得ないんですけどね。カルテには子宮(しきゅう)肥大(ひだい)と書き直(なお)します。筋腫(きんしゅ)はなくなっていますので手術の必要はなくなりました。こんなこと有り得ないんですけどね。お疲れ様でした」。

抜(ぬ)けた、腰が。私の腰は完璧(かんぺき)に抜(ぬ)けた。お見事(みごと)なまでに抜けた腰のまま、「申し訳有りません」、と咄嗟(とっさ)に私は担当医に詫(わ)びていた。住職の「治(なお)ったでェ」の言葉と結(むす)び付いたからだ。