患者側(かんじゃがわ)から詫(わ)びられた担当医は尚更(なおさら)混乱(こんらん)したに違いないが、しかし私は、何の罪(つみ)もない担当医に対して、申し訳ないという気持ちでいっぱいになったのだ。

何回か、申し訳有りません、の言葉を繰(く)り返(かえ)しながら、抜けた腰のまま逃げるようにその場から脱出(だっしゅつ)したのだが、病院から帰る道すがら冷静(れいせい)になって考えてみると、初回(しょかい)の外来診察(がいらいしんさつ)の時、担当医の説明を受けながら、確かに私自身も自分の子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)の画像(がぞう)をこの目で確認をした。

また、何よりかにより典型的(てんけいてき)な子宮筋腫の自覚症状(じかくしょうじょう)が有り、患者側(かんじゃがわ)の私の立場としては医療(いりょう)ミスではない。しかし、世間一般的(せけんいっぱんてき)な観点(かんてん)からすると、病院側に問題が有ったのではないかとされ兼(か)ねない状況である。

この状況(じょうきょう)で、患者側(かんじゃがわ)から繰(く)り返される謝罪(しゃざい)の言葉は、むしろ担当医の心を傷(きず)付(つ)けたかもしれない。

かといって、子供の頃、道徳(どうとく)の時間で習(なら)った、嘘(うそ)をついてはいけません、 正直(しょうじき) が大切です、とばかりに、「見知らぬ大阪の住職に、数珠(じゅず)で腰の辺りを数回撫(な)でてもらい、その結果めでたく子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)を消してもらいました」とは、とてもじゃないが言えた話ではない。

四十過ぎにして、医学や科学では到底(とうてい)説明(せつめい)できない生まれて初めて体験する未知(みち)の世界に、一歩足を踏(ふ)み入れた瞬間(しゅんかん)だった。

あれから三十年近く経つ今でも時々思う。高い偏差値(へんさち)を持ち、西洋(せいよう)医学(いがく)を学んだベテランらしき年配(ねんぱい)の担当医(たんとうい)と、数珠でほんの数回腰の辺(あた)りを撫(な)でただけで子宮筋腫を消した住職との狭間(はざま)で、私は担当医に対して一体どういう対応(たいおう)を取るべきだったのだろうと。

気付くと、病院での出来事を切(き)っ掛(か)けに、不倫(ふりん)エセ住職からご住職様へと私の気持ちは大きく変化した。これを起点(きてん)として私達夫婦の人生の旅(たび)は、私達が想像(そうぞう)もしない方向に舵(かじ)が切られ、すでに旅立(たびだ)っていた。

 

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