【前回の記事を読む】「放送部に入ったら?」 なんの部活に入るか悩んでいた私に、無口な姉がぽつりと言った。

新潟での日々

初夏の早

「これから渡す課題に基づいて原稿を二部作成し、明日NHKホールの玄関前の決勝進出者名簿に自分の名前があったら、一部を受付に提出してください」

「ええっ! 準決勝通過するのは十人なのに、全員原稿書くの!?」

今日が終わればすべてが終わると思っていた私は愕然としました。それでも目黒の親戚の家に戻り、白い紙と物差しを借りて原稿用紙を手作りして、文章を考えました。

課題は今回の放送コンテストについて。コンテストに関連する言葉がたくさん書いてあって、その語句をすべて使って原稿を作るのです。決勝に残らなければ無駄に終わる作業でしたが、何とか書き上げました。

翌日、NHKホールに着くと、いつもは冷静なY先生が、落ち着かない様子で私を待っていました。

「早く、早く! 決勝に残ったのよ!」

「ええっ!」

先生の言葉が信じられず、名簿を見に行くと、確かに私の名前がありました。

「あなた、原稿書いてきた?」

「はい」

先生はほっとした様子で言いました。

「じゃ、早く出してらっしゃい、もう時間ギリギリよ」

「先生、私、制服を鞄に入れて、東京駅に預けて来てしまったんですけど……」

絶対決勝に残らないと信じていた私は、親戚の案内で東京見物をするつもりで、私服に着替えていたのです。

「私が原稿出しておくから、すぐ東京駅に行って制服に着替えてらっしゃい!」