土曜には、ゴルフをキャンセルしてまで広大おじさんがやってきてくれた。谷本先生は何度も頭を下げた。

「沢村さん、申し訳ない。お忙しい中をわざわざ」

「何をおっしゃいますか。いつも息子がお世話になっておりますから、これくらいのことはさせてください」

その日、広大おじさんの鋭いカーブを全員が打たせてもらった。これまた、まともに打てるのは英児一人だった。

(まずいな。やっぱり池永のカーブを打てるのは英児だけかもしれない。せめて坂本がなんとかしてくれるといいのだが)

弱気の虫が頭をもたげたが、僕は自分に言い聞かせた。

(何を弱気な。僕が打つんだ。池永メモにはカーブを投げるポイントが書いてあった。あの知識を逆に利用すれば、打ち方も分かるはず)

僕は必死にノートを読み返しながら、それを鞄にしまい込んで打席に入った。

「お願いします!」

広大おじさんのカーブは大きく鋭い変化だったが、僕は打席の一番手前に立って変化しきる前に叩くことを試した。そして十数回振ったところで、初めて金属バットが快音を鳴らした。左投げの広大おじさんのカーブを、逆らわずライト前にはじき返したのだ。

「いいぞ、太郎君、その調子だ」

この練習は夕暮れまで続き、試合を迎える夜がやってきた。自宅で僕は食事を軽めにすませ、いつもより早く眠った。明日が中学野球最後の試合になるかもしれないという不安は、打つ手をすべて打つことで消えていたから、すぐに眠りに落ちた。

 

 

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