【前回の記事を読む】1死一、三塁となって僕の出番が来た。特に力みはなく、我ながら冷静だった。観客席からは両親の声まで聞こえてきた

第二章 中学野球編

続く2回戦、3回戦も順調に勝ち上がった。英児は4番でレフトを守り、残りの3投手を僕は池永メモから得たヒントでリードし続けた。打線も英児を軸に順調に得点を挙げ、2回戦は4対1、3回戦は5対3という内容で、地区のライバル、仁成学園中との試合を迎えることになった。

私立仁成学園中等部は新丸子の駅からバスで10分ほどのところにある中高一貫教育の学校で、過去には高等部が甲子園大会出場も果たしている強豪校だった。その試合を翌週に控えたある日、福田記者から気になるメールが来た。

「仁成学園中に、池永という名の投手がいる。君らと同じ3年生だ。個人情報だから追いきれないが、どうも池永裕次郎の親戚、それも甥らしい。確かに池永には2歳年下の弟がいた。野球をやっているという話は聞いていたが、まさかあの池永の血が流れているとしたら、侮れる相手じゃないぞ、太郎君」

それは宿命としかいいようがない出会いだった。強豪仁成学園中で主戦投手を務めている池永雄太は、確かに僕が手にしている池永メモを引き継ぐべき男だった。僕は、その相手の投球を見ないわけにはいかなかった。

幸い、真紀さんや後輩たちが仁成学園中の試合をビデオに撮影してくれていた。それを理科の山村先生がDVDにして、渡してくれた。

「良かったじゃない、湯浅君。4回戦進出おめでとう。また関東大会、狙えるんじゃないの」

山村先生もリケジョながら体育会系で、大学時代はラクロスでならした猛者だった。もう少し宿題を減らしてくれれば有難かったが、顧問でもない野球部にはよく協力してくれていた。

「それが、次の相手があの因縁の仁成学園中なんですよ。去年、英児が投げたのに接戦になって、何しろ野球留学生みたいな連中がごろごろいますからね」

「へえ、それでビデオを分析しようってわけなのね。すごい選手でもいるの」

「はい、一人すごく気になる奴がいます。理由はうまく説明出来ませんけど、池永っていうピッチャーが、僕が想像した通りなら、手ごわい相手です」

「へえ。なんとなく分かるわ、私でもそういうの。ラクロスの試合でも、強い相手ってオーラが出ているというか、雰囲気あるものね」

「そう、そんな感じです」