僕は自宅でそのDVDを何度も見返した。池永さんの顔までは知らなかったから、似ているのかどうかまでは分からない。でも、この池永雄太は、そこらにいるピッチャーとはわけが違っていた。
上背は175センチくらいだろうか。右投げのパワーピッチャーで、英児ほどではないがかなりの球速だった。変化球はカーブ程度しか使っていなかったが、相手を完全に封じ込んでいた。さすがは名門仁成学園中でエースの座を勝ち取っただけのことはある。ゆくゆくは高等部に進んで、やっかいなライバルになるに違いない。「今度の試合、取れて3点が限界だろうな」
僕はそう感じた。英児が投げない限り、とうてい勝ち目はない。それでも、果たして本当にこの池永を打つことが出来るだろうか。僕は打者の分析は専門でも、投手の分析までは出来る自信はなかった。
翌日、さっそくそのDVDを入れたパソコンを持って学校に行き、キャプテンの坂本に見せた。
「どう思う?」
坂本はしばらくじっと考え込んでいたが、やがて重い口を開いた。
「なんでこれほどのピッチャーを今まで知らなかったんだろう?」
「なんでも、仁成学園中には去年編入してきたらしい。関西の方で投げていたらしいんだ」「そうか。谷本先生に相談しないといけないけど、英児に投げてもらうしか対抗手段はないぞ。もともと仁成学園は打線が売りだ。去年英児から2点も取った。俺らがこいつから点を取れたとして、出来て……」
「3点がいいところだろうな」
「太郎もそう思うか。それもうまくいっての話だ。こりゃあ、考えを改めないと、これまでの相手とはレベルが違うぞ。関東大会にだって、こんなピッチャーはいなかったからな」
宿命のライバルの登場だった。運命に引き寄せられるように、僕は池永雄太と戦うことになった。この戦いは、予感通り高校に入ってまで続くことになるのだ。
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