そして僕は広大おじさんに電話で相談した。試合は日曜日。前日の土曜日にカーブを投げに学校に来てもらえないか、と。二つ返事だった。

「いいとも。その日の接待ゴルフは適当なことを言って部長代理に任せて私はキャンセルする。せっかくの太郎くんの頼みだ。喜んで引き受けるよ」

こうして僕らはその夕方から地元の市原バッティングセンターに通い詰めた。さすがに時速140キロともなれば高校生並だ。打てるものではない。しかし、池永の球速に対抗するには、これしかなかった。まさか英児に投げさせて試合前に消耗させるわけにもいかない。

しかし、たった一人例外がいた。英児だ。子供の頃から広大おじさんの速球を打っていたあいつは、何度も鋭い当たりを飛ばし、皆をあきれさせた。

「どれだけ才能があるんだよ、あいつは」

何も知らないメンバーはそうぼやいたが、僕は知っている。英児がどれほど練習を積み重ねてきたかを。英児は天才的な野球センスを持ってはいたが、それ以上に人の数倍は努力を重ねてきているのだ。

そして、140キロのボールに次に反応出来たのは、ほかならぬ僕であった。英児の剛速球をいつも受けてきたからだ。

「太郎、お前、やっぱりすごい奴だよ」

坂本も、中島も、松井も口をそろえた。

「今度の試合、おそらく仁成は英児を徹底的に歩かせに来るぞ。太郎、お前が5番だ」

打順を決めるのはいつも主将の坂本だった。こうして、当日の打順は決まった。
1番センター松井、2番セカンド桜井、3番ショート坂本、4番ピッチャー沢村、5番キャッチャー湯浅、6番ファースト中島、7番ライト松原、8番サード富樫、9番レフト大場。

2年生は桜井と大場で、あとは全員3年。左打者は英児一人だったが、これが精いっぱいの打順だった。