事例と解決篇
第3章 価値観の押し売りはNG
1.アドバイスは必要?
日常生活の中で、あるいは仕事中にアドバイスを求められることは、多くの人が経験することではないでしょうか。そして、たいていは自身の経験を頼りに、アドバイスをするのではないでしょうか。
それは、例えば自身や、あるいは自身が見聞きしたことのある他者の成功体験に基づいていたり、「そんな時はこうすべき」といった自身の価値観に基づいていたりするものです。
日常のちょっとした場面や、仕事で即応しなければならない場面で、それを乗り切るに足るアドバイスとしてありがたいこともありますが、こと相談業務においては、これがかえって仇(あだ)になることが往々にしてあります。
この章には、相談業務において、対応者の価値観が相談の妨げになる場合があることについて、私が経験した事例を通じて具体的に記述しています。後の章でもまた触れますが、「せっかく話を聴いてもらいたくて相談したのに、対応者の価値観を押し付けられた」「長々と話を聞かされた」という声をいただいたことが度々ありました。そのため、そういったことが起こらないようにどうしたらいいのかを取り上げました。
2.事例を通じて「さて、どうする?」
先の章と同様に、この章のテーマに沿ったいくつかの事例を提示します。これらについても、いろいろな考え方がありますので、各事例についてここで述べていることは、必ずしも最善とは限りません。しかし、参考にできそうであれば、様々に活用していただけると幸いです。
【事例6】
相談内容: 「他の相談機関に電話相談したところ、寄り添った対応をされなかった」という相談。
相談者:20代女性
対応者:著者
対応場面:電話での相談対応
※著者は、この時精神保健や自殺対策に携わる保健所の部署に在籍
「ある相談機関に電話したところ、全く寄り添った対応をしてもらえなかった」と保健所に電話があった。他機関には「仲間に電話やメールをしても応答がなく、避けられているようで困っている」と相談したが、「返事が来ないことでまた苦しむのであれば、コンタクトを取らなければいい」とアドバイスを受けた。
20代女性は、「相談機関にもかかわらず、相談者に対して全く寄り添った対応をしていない」と憤慨していた。
次回更新は5月4日(日)、8時の予定です。