【前回の記事を読む】「ヌナカワヒメ」伝説…なぜ、いっしょに暮らしはじめた能登で、姫は逃げてしまったのか? 僕の推理としては… …

第2章 夏休みの自由研究

4 ヒスイとヒメの仮説

「ヒスイはすごくかたいんだ。マガタマって、知ってる?」

「昔の人が、首にかけていたかざりに使われているやつね」

「そう。あれにヒスイも使われているんだ」文子が首をかしげた。

「かたいのにどうやって、加工したの?」

「そう。それが不思議」

「ぼくも気になったことがあるんだ」こんどは、研一だ。

「古事記(こじき)に書かれている神話って、本当にあったことなのかな?」文子が続けた。

「ヌナカワヒメの伝説だってそうよ。本当にあったことなのかしら? もし、モデルがいるとすれば、いつの時代の人なの?」研一が答えた。

「わからない。言い伝えだからね」波奈が口をはさんだ。

「何か手がかりはないの?」

「うーん。学者も研究してるんだろうけどね。決まった説はなさそうだね。そうそう、父に聞いたんだけど、今、上野の東京国立博物館で『縄文展(じょうもんてん)』をやってるんだって。行ってみる?」

みんな賛成した。八月八日の午前十時に、上野で会うことになった。上野の博物館前は人であふれていた。会場に入ったとたん、波奈はびっくりした。

なにこれ! 縄文人(じょうもんじん)って、ウサギをとったり、ドングリを拾ったり、小さな小屋で、原始的な生活をしていたと思いこんでいたのに。

研一の目も驚(おどろ)きで大きく開いていた。

文子も悟も同じだった。

四人とも、小さなノートをバッグから出して、ボールペンでメモをとりはじめた。いきなり監視員(かんしいん)さんに声をかけられた。

「ボールペンを使わないで、これを使ってください」

監視員(かんしいん)さんは短く平たいエンピツを、波奈たち四人に渡(わた)してくれた。博物館では展示品を汚(よご)してしまうおそれのある、ボールペンや万年筆、シャープペンシルなどは使えないことになっていることを知った。

ひどい混雑だったが、立ち止まってメモをとる波奈たちを、みんなじょうずによけてくれた。

およそ一万年間の縄文時代(じょうもんじだい)の生活のようすと、遺跡(いせき)から発見されたものが展示されていた。ヒスイのマガタマもあった。きれいに丸い穴が開けられていた。

図鑑(ずかん)で見たことのある、火焔型土器(かえんがたどき)や縄文(じょうもん)のビーナスもあった。