夏休みが終わり、ナオミは熊本市の受験予備校に通い始めた。
サンタアナの小学校から高校一年までの成績は良かったが、来年の高校入試では、日本語で出題される各教科の問題に日本語で解答しなければならない。
英語はネイティブだから心配ないが、和訳の日本語に磨きをかけ、英作文の問題文も正しく理解しなければならない。
秋が深まり、予備校へ通うバスの窓から見える阿蘇の紅葉は、日に日に鮮やかさを増していく。やがて落ち葉を散らして裸になった森は冬を迎え、予備校そばの商店街には、クリスマスのイルミネーションが輝き始めた。
正月はお盆同様、洸平さんと遼平さんの一家が帰省して仲良し五人組も再会したが、暮れから三箇日までの短い滞在で、しかも受験生がナオミの他にもいたので、楽しい時間も夏休みほどには長くなかった。
一月の半ばには、無病息災と五穀豊穣を祈る祭り「どんどや」があった。高く組み上げた竹のやぐらに藁を詰め、正月飾りを投げ入れて一緒に燃やす。
竹がいっせいにはぜる音とともに、燃えさかる炎が二〇メートルにも達する伝統行事に、ナオミは目を見張った。そして、御霊祭りの最後に墓前で焚いた送り火の光景を思い出した。
「送り火に似てる感じがするね」とナオミが言うと、そばにいた國雄が教えてくれた。
「昔は師走ン二十八日に松迎えばしたげな。山でこれちゅう木に御神酒(おみき)ば供えて伐って、新しか縄で丁寧にからってきて松飾りにしたげな。盆花採りに似とるな。やけん、どんどやは年神様になって還ってきた、ご先祖様ン霊送りン意味もあるとじゃろう」
熊本弁にも大分慣れてきたので、國雄の言いたいことはほぼ理解できた。ナオミは、林家を見守ってきた先祖代々の精霊が、毎年たゆみなく続くどんどやの立ち上る火の粉や煙に混じって、空を昇っていくのが見えるような気がした。
どんどやが終わると二月下旬の入試まではもうひと月あまりしかなかった。
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