【前回の記事を読む】【先行配信】自分のもうひとつの国旗を確かめてみたい、日本に行ってみたい。――日系四世のナオミは、日本で夏休みを過ごすことになり…
グラデーション
迎え火の日、慣れない手つきで魂迎えの提灯を代わり番こに持つ子どもたちに、國雄じいちゃんは、
「精霊祭りン間は、バッタやトンボば捕りなすな。喧嘩ばしたり泣いたり駄々ばこねてはいけん」と言った。盆花採りの日、佳枝ばあちゃんは、花を一抱え摘んで帰ってきたナオミとわかばに、
「こら御霊祭りン晴れ着ばい、よかやろう」と嬉しそうに言いながら、あり合わせの生地で縫った涼しそうな簡単服を着せてくれた。そして、男の子三人にも半ズボンを作ってくれた。
そんなことも含めてお盆の間のすべての体験に、初めてのはずなのに随分前から知っているような、そして何度も繰り返してきたような不思議な親しみをナオミは覚えた。そんな気持ちを伝えると國雄は、
「神として鎮まっとる祖霊ンお陰でそう感ずるばい」と言った。
「ソレイって何? シズマットルってどういう意味?」
「神となって見守ってくれているご先祖様のお陰で、そういうふうに懐かしく感じるんだ、ということだよ」
ナオミは「ご先祖様」は見えないけれど、その姿をぼんやりと感じられたように思えて、かすかな安らぎを覚え、少し誇らしい気持ちになった。
帰国して三ヶ月後の十一月からはアニメ『ハイ! ハイ! パフィー・アミユミ』の放送が始まった。アメリカで人気を博した日本の女性ボーカル・デュオ、パフィーの全米バスツアーをモデルにした冒険コメディだ。二年にわたって放送された三つのシリーズを毎週欠かさず楽しんだ。見られない時はリサに録画してもらった。
特にお気に入りだったのは、中世や原始時代などいろいろな時代の世界中をコンサートで回る、アミとユミのカスタムバス。見た目は普通のバスなのに中が異様に広くて、ベッドのある二人の部屋、マネージャー兼運転手カズの部屋、さらにテレビやパソコンや楽器のスペース、そして二階まであるというあり得ないバスだ。
自動運転装置付きで、走行中でも三人が後部キャビンでおしゃべりしたり、後部ドアを開けてスクーターで配達されたピザを受け取ったりできる。
ナオミが父親のケビンに「うちにもこんな車がほしい」とおねだりすると、「これはアニメの世界でしか売ってないなあ」とやんわりかわされたことを憶えている。姉御肌で面倒見が良くてロマンチストで天然なアミ。クールで皮肉屋だけど優しくて女の子らしさもあるユミ。そんな二人の自由奔放な冒険旅行が毎回楽しみだった。
でも、『セーラームーン』と『パフィー』が大好きだった最大の理由は、うさぎを入れた三人とも眉と瞳が黒くて、日本人らしい肌の色と顔立ちと容姿、そして日本名を持っていたからじゃないかと思っている。