【前回の記事を読む】世界遺産 パルテノン神殿は見せかけの神殿? 紀元前から歩んだ歴史の中で、実は倉庫として利用されていた―。
II 遺跡ガイド
1. アテネ市内とピレウス
アクロポリス南側斜面
〇アスクレピエイオン
それぞれの神域には神殿と祭壇、アバトン(お籠もり堂)、聖なる泉があり、病人は聖なる泉で身を清めてから犠牲を捧げ、お籠もり堂で眠りにつきアスクレピオスから夢のお告げを受けました。
パウサニアス『ギリシア案内記』(第1巻第21章第4節)は、「この泉のほとりで、ポセイドンの息子ハリロティオスが、アレスの娘のアルキッペを犯してアレスに殺され、この殺害事件をめぐって裁判というものが初めて行われた」と記しています。

〇ディオニュソス劇場
アクロポリスの南側の斜面には、ディオニュソス劇場が残っています。この劇場は、エレウテライ出自のディオニュソスを祭神とする、前6世紀後半の神殿の付属施設が起源とされています。アテネの財政再建に貢献したリュクルゴスによって前330年頃に大理石で改修され、さらに1世紀のローマ皇帝「暴君ネロ」の時代に改築されました。オルケストラ(歌舞場)は円形で、座席の収容能力は1万7千人と推測されています。
劇場の上部は崩れていますが、アクロポリスの城壁直下までが座席として加工されており、最前列の席は、神官やポリスに特別の貢献のあった者だけが着席を許される特別席となっています(今は不明ですが、私が滞在した当時は劇場に自由に入ることができました。座り心地は決して良くはなかったですが、特別席にも座ることができました)。
現在、舞台の部分に残っているのは、後400年頃のファイドロスの演壇(ベーマ)で、その前面にはディオニュソス神の生涯が浮彫りにされています。
