11月25日(水)
再び暗転
昨日訪ねたとき、「良くなっているのが自分で分かる」と良子は言った。私も嬉しかった。
しかし前の退院のときとは違い、良子に快活さがなかった。思えば最初に救急病院へ行ってから三月近くになっていた。
全粥になっていた。腸を指で示して、グルグル鳴った、と言った。
先生に話したか、と私は訊ねた。良子は首を振り、看護師さんには話したと言った。「腸が活性化しているのだろう」と私は言った。26日の退院を、誰も、まったく疑っていなかった。
今日は6時46分新横浜発の“ひかり”で、あい子と共に大阪へ向かった。大阪で、グループ会社全体の株主総会があり、今日は、私もあい子も来られないことを良子はよく知っていた。“のぞみ”でなく“ひかり”なのは「大人の休日クラブ」割引が30%あるからである。30%というのは大きい。
9時30分に新大阪着、10時に本社に入った。11時に顧問会計事務所の先生が来社、税務申告関係のすべての書類に捺印した。グループは全部足しても小さいが、5社あり、そのうち4社まで私が代表取締役である。
ただ私に権限はなくダミー社長である。絶対的な執権者はオーナーである。私が実行できるのはこの人物が同意する場合のみで、彼女の意向に逆らっては何一つできない。
それがこの日88歳、傘寿を迎える長姉である。株主総会が11月25日に行われるのは、それが彼女の誕生日だからである。総会は2時開始で順番に確認、議事録等に捺印していく段取りである。
開始の直前にあい子の携帯に電話が入った。あい子の表情に緊張が走った。私はそれが病院からのものであると直感した。
「お母さんが吐いた。また腸閉塞が発生したらしい。イレウス管による治療は、お母さんがイヤと言っているらしい。手術するしかないが、そのことへの承認を求めて来ている。今夜直ちに行うらしい」
そして電話機を私に渡した。
「手術しなければどうなりますか」
「死にます」