「人が植林してできた森の樹は伐らなければ育たないんや。森には伐っていい樹といけない樹があるんや」

「どんな樹は伐ってはいけないの? 伐らなければ、とおもう樹は?」と沙那美。

「そうやな、大樹はできるだけ残すけど、大樹でも伐っていい樹はすぐわかるよ」

そこで祐司はそっと息を継ぎ、「受光伐 (じゅこうばつ)って言うのやけど、密生して閉塞された森には陽の光を入れるんや。すると、残すべき樹は光って見えるよ」

祐司は鼻筋の通った顔を上げ、沙那美の目を覗き込むように言った。

「ほんと?」

「ほんとや。森は森羅万象(いきとしいけるもの)、助け合って生きている。大樹を活かすための役目が終わった樹もあるんや。それは伐る。大樹にはやがて神が宿るんや。それを伐ったら、祟りや。

大樹でも森全体から見て、調和を乱す樹には、雷神が忠告をする。周りとともに生きよ、と。それが神鳴り、すなわち雷や。自然の摂理を乱せば、落雷のお灸をすえられるんや」

「ほんと?」

「ああ、ほんとや。少なくともぼくはそうおもうとる。森に陽の光が入ると、日陰の土の中で眠っていた草や樹が一斉に眠りから覚めるんや。それで植物の種(しゅ)も増える。するとまず菌類などが増える。それにつれて植物はさらに繁茂し始め、昆虫や草食動物も増える。やがて肉食動物もやってくるんや」

祐司はさらに言葉を継いだ。

「ぼくの友だちでな、街のシンボルの欅の大樹が土木工事で伐採されそうになったとき、夜陰に紛れて、横綱が締めるようなしめ縄を大樹に巻き付けた奴がいたんや」とそこで、祐司は言葉を切った。

次回更新は4月9日(水)、22時の予定です。

 

【イチオシ記事】3ヶ月前に失踪した女性は死後数日経っていた――いつ殺害され、いつこの場所に遺棄されたのか?

【注目記事】救急車で運ばれた夫。間違えて開けた携帯には…「会いたい、愛している」

【人気記事】手術二日後に大地震発生。娘と連絡が取れない!病院から約四時間かけて徒歩で娘の通う学校へと向かう