【前回の記事を読む】「インドの下痢は、日本の薬では絶対治らない」治療方法は断食⁉旅人が経験するインドの洗礼
二章 インドの洗礼
パトリシアの印象が三週間前に会った時とはずいぶん違っていた。瞳の縁に宿っていた憂いのようなものは消え、どこか吹っ切れたような明るさがあった。異国の生活に慣れ、自分なりのリズムがつかめたのかもしれない。ジョンと一緒ではなく、彼女一人で来たことがその証のように思えた。「そうだね、生まれ変わったような気分だ。明日からはヨガ道場に行けそうだよ」
「それは良かったわ。ウィットラムもあなたに会ったらきっと喜ぶわ」パトリシアは満足そうに頷(うなず)くと、言葉を続けた。
「この宿にいるデビッドから聞いたけど、断食療法をしていたそうね。それは正しい方法かもしれないわ。私はイギリスから持ってきた薬を飲みながら普通に食事をしていたせいか、一ヶ月以上治らなかったわ。
インドの病院はあまり信用していなかったけど、最後はそこに行って死ぬほど苦い薬を飲んだら、一日で治ったの。イギリスに〝Do in Rome as the Romans do〟という諺があるけど、本当にその通りね」
パトリシアはとても綺麗な英語を話す。英語が不慣れな僕でも、ある程度は理解ができる。彼女が言ったのは、日本で言うところの「郷に入れば、郷に従え」だろう。
彼女はそれから一時間ほど家族のことや、ジョンとの出会いのエピソードなどを話すと、紙に自分の宿の地図を書いて僕に渡した。
「いつでも遊びに来て。山の中腹にある一軒家だからすぐに分かるはずよ。それから来る時は TORCHを持ってくることをお勧めするわ。山道は日が暮れると真っ暗になって、何も見え
なくなってしまうの」
「TORCH?」
僕は何を言われたか、理解できなかった。