二章 インドの洗礼
「額に素敵な物を付けてもらったわね」
ふいに後ろから誰かが声をかけてきた。振り向くと、そこにパトリシアが立っていた。彼女はインドでどこにでもいそうな小型犬と一緒にいた。
僕は人の気配を全く感じていなかった。少女に魅せられ、心を奪われていたからだ。
「見ていたの?」
「ええ、恋の邪魔をしないように遠くからね」パトリシアは微笑みながら言った。
「その犬の名前は?」
彼女の横に立っている茶色の痩せた犬は、喜びを全身で表すように目一杯尾を振っている。
「ジョンよ」
「いい名前だね。ジョン、おいで」
僕が名前を呼ぶと、勢いよく跳び付いてきた。それに応えるように喉の辺りを摩(さす)ると、彼は寝転び、ごろんと半回転して腹を見せ「クゥーン」と甘えた声を出した。
「ふ~ん、珍しいことがあるのね」
パトリシアは、不思議そうに僕達を見ていた。
「ジョンは一ヶ月前まで野良犬だったから、私以外には懐かないのに、あなたは特別みたい」彼女はそう言って、バッグからハンカチを取り出すと、地面の上に置き、両足を揃えて座った。ジョンはそれを見て、横に寄り添うように座っている。
「この歌知ってる?」