リシケシに来た理由や心の変化を英語で上手く伝えられない。何をどう表現したらいいのかが分からなかった。
「ところで、君はジョンと毎日散歩しているの?」
「ええ、そうよ」
自分の内面をさらけ出すのが怖くて、僕はつい話を逸らしてしまった。「いつもは上流の方へ散歩するの。たまにはラクシュマンジュラの吊り橋を渡って、対岸にあるヒンドゥー寺院まで行くこともあるわ」
「結構遠くまで行くんだね」
「今の私にとって、ジョンと散歩をするのが一番の楽しみなの」
パトリシアの言葉には、なぜか深い悲しみのようなものが含まれていた。僕にはその悲しみがどこからきているのか、推し量る術(すべ)も、かける言葉も、何も思い浮かばなかった。
早朝は手がかじかむほどの寒さだったが、日が昇り昼を過ぎた今は、春の陽気を思わせる心地よさだ。その陽光を浴びて、ただ風の音に耳を澄ませていると、僕の肉体が溶けて風景の一部になっていくような気がした。
ジョンとパトリシアと別れると、僕は宿に向かった。
少女との出会い、パトリシアと交わした会話。全てが夢のようだった。きっと聖なる川ガンジスは、ほんの少しの気まぐれ心からか、僕に一時の安らぎを与えてくれたのだろう。
宿のそばまで来ると、陽が西に陰り、冷気が足元から這い上がってきていた。冬の陽は感傷を覚える間もなく、ガンジスの対岸に音も立てずに姿を消していった。
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