秀樹は時間通りに建物の外階段から下りて来た。僕達は挨拶を交わすと、連れ立ってリシケシの街へ向かった。
歩きながら、お互いの自己紹介やヨガ道場の仲間のこと、行きつけのチャイ屋の話などをした。遠い異国の地で出会ったからだろうか、僕達は以前からの知り合いのような打ち解けた口調で話をしていた。
シバナンダアシュラムとリシケシのちょうど中間辺りにある、小川に架かる石造りの橋を渡り終えると、前を歩いていた秀樹は僕の方を振り返った。
「今日の夕食は、街で一番高級なインド料理店だ。マスターには恭平も会ったことがあるんじゃない? たまにヨガ道場に来るターバンを巻いた人だよ」
その男性とは数回しか会っていないが、すぐに思い出すことができた。背が高く、中年のせいか下腹が出ているが、肩幅のあるがっちりとした体つきをしている。彫りが深く目鼻立ちがはっきりしているのは、きっと白人系アーリア人の血が濃いからだろう。
リシケシの街に着くと日は暮れていた。メインストリートに面した小売店や食堂は皆、どこか郷愁を誘うオレンジ色の裸電球が灯されていた。
僕達がドアを開けて中に入ると、店の経営者であるハルプリート・シンは満面の笑みと、「サト シュリーアカル」というシーク教徒の挨拶で迎えてくれた。
彼に案内された席は店の一番奥だった。僕達が落ち着いて話ができるように計らってくれたのだろう。その四角いテーブルには、真っ白なテーブルクロスがかけられていた。
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