「FLASHLIGHTって言えば分かるかしら? 私達イギリス人は、TORCHって言うの」
「懐中電灯のことだね、残念ながら持ち合わせていないよ」
「そう、でも心配しないで。帰りが遅くなるようなら私が途中まで送ってあげるわ。私の持っているTORCHは、あなたの心の中まで照らせるくらい明るいのよ」
パトリシアは片目を瞑(つむ)り、ウインクした。
「そういえば昨日からもう一人、日本人がヨガ道場に来ているわよ。名前はHIDEKI、彼は十ヶ月前からシバナンダアシュラムの寮にいたんですって。でもここ三ヶ月は訓練を休んで、インド各地を旅していたみたい。きっと明日会えると思うわ」
パトリシアは、これからバザールに行って買い物をするの、と言って帰っていった。部屋には彼女の残していった、甘く芳醇な薔薇の香りのようなものが漂っていた。
「体調を崩していたみたいだけど?」
翌日朝のヨガレッスンを終えると、道場の中で小嶋秀樹が話しかけてきた。髪が長く目元が涼やかで、落ち着いた雰囲気から少し年上に見えた。
「もう大丈夫です」
「それは良かった。インドの下痢の凄さは経験した者にしか分からないからね。ところで今夜、リシケシの街で一緒に食事をしない?」
「喜んで」
思いがけない秀樹の誘いに、僕は二つ返事で答えた。
日が暮れかかる頃、僕達はシバナンダアシュラムの受付のある建物の前で待ち合わせをした。
その建物の二階と三階は、外国から来た生徒達が暮らす寮で、四階がシバナンダの著書をはじめヨガやヒンドゥー教関係の本が所蔵されているLIBRARYになっている。