戦前の舞鶴は、海軍の街だった。

その港にはかつて、日露戦争の日本海海戦に勝利した海軍の艦船が華々しく凱旋した。敗戦後は、海外領土を追われた日本人が命懸けの帰還を果たした。

日本は、天皇陛下というかけがえのない帝を戴く国だ。戦前の日本人は、そのような君主国という意味あいよりも、有色人種国家の雄であり、世界に冠たる一等国との自負心から、この国を帝国と呼んでいた。

帝国日本の、夜明けと落日。二つの象徴的な光景を映し出した舞鶴は、近代日本の時空をめぐり、現在のこの国と、私の拠って立つ時代を明らめるのに、ふさわしい空間に思われた。

本書は、私の史跡探訪を時系列に記しながら、史実の回顧と歴史的事象の考察を織り交ぜた内容となっている。実際の紀行文と歴史の思索が多分に交錯しており、分量としては後者の記述が上まわっている。

本文中の市街地の建物などの描写は、二〇一七(平成二十九)年当時のものである。元号はまだ平成だったことから、平成という主語が多いことも、あわせてお断りしておきたい。

御縁あって、書籍として刊行させていただく機会に恵まれた。

拙著を手にとってくださった皆様に、この国の様々な先達たちの軌跡を、時の旅路を、私とともに歩んでいただけたら。

中村亮太