「ああ、え、そうだったっけ? 忘れちゃったな」
金清は分かりやすく狼狽していた。
「僕の中では金清さんも容疑者の一人です。潔白を証明したいのなら、監視カメラの映像を確認するしかありません」
「君、俺を脅すのかい」
「警察が調べる前に真実を知りたいんです。お願いします」
海智の断固とした態度に気圧されて、金清は深い溜息をついた。
「しょうがねえな。そこまで言うんならやってやるよ」
金清はやけくそ気味に椅子の背を両手でばっと掴むと勢いよく立ち上がった。
二人が廊下に出てエレベーターが一階から上がってくるのを待っていると、ドアが開いて中から信永経子が出てきた。経子は二人を見ると目を見開き、急に立ち止まった。
「今日はお仕事はお休みですか?」
海智が訊ねた。
「え、ええ、今日は年休を貰ったから、朝から来たの。一体どうしたの?」
経子は明らかに狼狽していた。
「いえ、ちょっと一階の売店まで」
「そうですか・・・・・・じゃあ」
そう言うと経子はそそくさと廊下の右手へ歩いて行った。
「あれが信永経子さんです」
エレベーターに乗り込むと海智が金清に言った。
「ああ、そう」
金清は首をすくめながらうつむき加減に返事をした。