【前回の記事を読む】「僕の中ではあなたも容疑者の一人です。潔白を証明したいのなら…」「君、俺を脅すのかい」

眠れる森の復讐鬼

監視カメラの映像は大体以下の通りだった。

七月二十五日十七時三十分、今城蒼が階段で離棟。

十七時三十五分、信永経子がエレベーターで来棟。

その後、医療従事者、患者、患者の家族の往来があるが、いずれも不審な動きはなかった。

二十一時十二分、経子がエレベーターで離棟。

二十一時十四分、金清が廊下の東側から現れ、ナースステーションがある西側へ移動。

ここで海智が映像を止めた。

「まただ。金清さん、一体何をしているんですか?」

「昨夜もナースステーションには来てないわよ」

「俺のことはいいから、早く次を見せてくれ」

眉をしかめながら、右手の甲を振って金清が催促した。首を傾げながら海智は映像を再開した。

二十一時三十分、金清がナースステーションの方から戻ってくる。

その後は人の往来は途絶える。

七月二十六日零時三十一分、一夏がエレベーターで一階へ降りる。

「本当は職員は階段を使うように言われてるんだけど、夜間は誰も使わないから」

ここで一夏が言い訳を言ったが、二人は全く聞いていない。

零時三十六分、一夏がエレベーターで帰棟。両手に点滴セットが入ったカゴを持っている。

「これは?」

「一時に石川に点滴する抗生剤よ。一階の薬剤部に取りに行ったの」

「点滴は薬剤部で作ってくれるの?」

「点滴は全て、中に溶かす薬剤の溶解も、点滴ルートをボトルに繋げるのも全部薬剤部でやってもらうの。私達は患者さんに針を刺して点滴ルートを繋げるだけなの」

二時一分、海智が現れ、ナースステーションの方へ走り出す。

「この時、梨杏を見たんだ。このカメラでは四〇一号室までは見えないな」

二時四分、階段から蒼が飛び出してくる。

その後、映像の最後までチェックしたが、特に不審な動きをする者はなかった。ただ、海智と金清がエレベーターで経子と鉢合わせした場面で海智は映像を止めた。この時、金清が不自然に顔をうつむかせ、明らかに経子の視線を避けようとしていたからである。