「手術は早いほうが良いでしょう。今日は今から手術前検査をできるだけしてしまいましょう」とパソコンのスケジュール表を見ながら院内携帯電話をかけ、検査の段取りや手術の予約など手続きを進める。そのてきぱきとした主治医の様子に、夕子は言いしれぬ不安をひととき忘れた。
「手術室は混んでいますが、早いほうが良いですね。キャンセルが出たのでなんとか来週できそうですよ。用意するものや入院手続きなどはこのあと、担当看護師から詳しく説明します」
主治医は極めて簡単そうに流れを言った。夕子の心にまた、手術は成功するのだろうか、主治医は初期だし、手術も簡単そうに話しているが、実際は大変なことかもしれない。
この医師に命を預けてだいじょうぶだろうか。そんなおもいが去来し、桜子のほうを振り返って彼女の目を見た。桜子の目は、だいじょうぶえ、と言っているようにおもえた。
不安はあったが夕子は主治医に言われるまま手術の承諾書など、桜子に見てもらいながら記入していった。
手術は滞りなくすんだ。術後の経過も順調だという。
「がんは巧く切除できたとおもいます。あとは経過観察を続けますが、再発が怖いです。無理しないようお過ごしください」
主治医の言葉はありがたかったが、「再発」が気になる。余命宣告は受けていないが、歳も古稀を過ぎた。夕子に残された時間はあまりないとおもわれる。悠輔と育んだ桜の園を夕子だけでなく、次世代に引き継いでいくためには後継者をどうするか大きな課題だ。
次回更新は4月5日(土)、22時の予定です。
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