【前回の記事を読む】肺がんと大腸がんの定期検診で健診結果が届き開けて見てみると…大腸がんは要再検査だった…
薄紅色のいのちを抱いて
冬桜
夕子は目の前が真っ暗になった。
(どうしよう? 桜ん園はどうしてもあと、十年続けたい。悠輔の夢を現実にしたいんや)
「潜血があったというだけやん。がんと決まったわけじゃなし……」
桜子は笑っているが、
(死ぬかもしれない。歳やさかい、いつかは、とおもっとったけど、あと十年は生きたい)
おもったよりだらしない自分に、夕子は声が出ない。
「でも、早いほうがええ」
桜子の声が高くなった。
「ばあば、どないしたん? 顔真っ青え」
麻美が夕子の右手の人差し指を握って言った。夕子はそれに応えないで、空咳を一つした。
「予約するから、その書類貸してみいな」
そう言って桜子は夕子から書類を受け取ると、携帯電話に番号を打ち込んでいる。
「はあ……、早いほうが良い? 来週の火曜日、午後二時ですね。取り敢えず再検査ですか。内視鏡の……」
桜子の電話が終わった。
「どないやった?」と夕子。やや自分の顔が引きつっているのがわかる。
「だいじょうぶえ。かあさん、内視鏡で再検査だって……」
(歳やさかい自分のことはええとして、桜ん園を放置できへん。どないしよう?)
そのことばかりで夕子は頭のなかが一杯になった。
梅雨前に入念に根回しした山桜の大木、どないしよう? 秋に移植する予定や。そろそろ段取りせなあ、あかん。このまま入院になったら……、どないしょう?が行列を作っていた。
冬桜の咲き具合も観たいと、おもっていたが、「それどころ違うえ」と桜子に言われてますます動揺を隠せなくなった。悠輔が逝ったときと同じような渦が夕子のなかで回り続けている。
(確かあんとき……、便秘気味で便硬かったさかい、前から痔気味やったんで、そこが出血したんやろう。がんちがう。いやもしかして……)