腸内をきれいにするためさらに下剤の投与から内視鏡検査が始まった。検査衣はお尻が外から見えないように工夫されていて恥ずかしさが少し和らいだ。また2リットル近い水を飲み、トイレに何回か行った。鎮静剤を注射され検査ベッドに横向きに寝る。

やがて肛門に内視鏡が差し込まれたようだ。時どき、男性医師の手が止まる。

それがかえって夕子には恐怖だ。病変を発見し、注視が行われているのではないか、夕子には時どき止まる医師の手元のほうが心配だった。

医師は病変を見つけたのか、内視鏡の先を替えるためだろうか、看護師に小さな声の指示が飛ぶ。

その間、検査はしばし止まるが、恐怖は続く。

内視鏡検査は数十分で終わったが、夕子にはとても長い時間が過ぎたように感じた。

「終わりましたよ。いくつか組織を採取しましたので、診断は約一週間後になります。ご家族のどなたかとおいでください」

夕子は医師の声を聞いた。その声は悠輔に似てやさしく聞こえたが、内心は必死で医師の態度や声の抑揚に検査結果の吉兆が察知できないかと五感をそばだてる。家族と一緒に来い、というのも命に関わる結果なのか、かなり気になる。

誰から聞いたか忘れたが、内視鏡検査の段階で医師は病変ががんであるかどうかおおよそわかるらしい。だが、正確に組織を検査し、何人かの医師グループで検証しないかぎりは何も言ってくれない、と。

医師は最後までポーカーフェイスを崩さなかった。

「だいじょうぶや。桜ん園はどうでもええんや」

そのとき、悠輔の声を聞いたような気がした。結果は一週間後。もしかしたら、という不安が次からつぎへと波のように押し寄せてくる。

次回更新は4月4日(金)、22時の予定です。

 

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