【前回の記事を読む】盛り土の上に二百万個の石のブロックが接着材を使わずに積み重ねられているという「ボロブドゥール遺跡」
第五章 インドネシアの旅を楽しむ
ヒンドゥー教の聖地・ブロモ山
マッサージ屋のおばさん、シティ(仮名)が副業でお客さん相手に旅行を企画しており、私も彼女から時々、声をかけられた。私の場合、かなりピンハネされているようであったが、それでもガイドブックに載っていないところや個人では行きづらいところに連れて行ってくれるので、時々、誘いに便乗した。
スラバヤに来て三年目の二〇一四年十二月、夜十一時に私の住んでいるコンドミニアムの玄関に二十八歳の男性が運転する黒いミニバンがやってきた。これからブロモ山に向かうが、シティしか乗っていない。一緒に行く予定であったオランダ人が、急にキャンセルになり、三人で行くことになった。
ブロモ山については、インドネシア大学のBIPAの授業でも観光地として何度か取り上げられていて、インドネシア滞在中に一度は行きたいと思っていた。しかし、途中で登山専用の車に乗り換えなければならず、要領がわからないうえ、その価格も交渉次第であると聞いていたので、スラバヤから近いにもかかわらず、一人で行く自信はなかった。
ブロモ山への登山口であるチェモロ・ラワンの駐車場には真夜中の午前二時前に到着した。車から降りると空気がきりっと冷たく、吐く息が白くなる。ここから先は登山専用の四輪駆動SUVに乗り換えなければならない。
運転手が先ほどから価格交渉に出かけていたが、ようやく戻ってきた。しばらくすると、予約したSUVが到着した。我々が乗り込むとカーブの続く真っ暗な山の中の砂利道をのろのろと走りだし、三十分あまり走ったところで止まった。
まだ朝の四時前であるが、路肩には同じ型のSUVばかりがぎっしりと並んでいる。ここから少し歩いてプナンジャカン山の展望台を目指す。車を降りると寒さで体が震える。赤道付近とはいえ、標高二千七百七十メートルの明け方は摂氏十度を下回り、日本の真冬並みの気温である。
コンクリート敷きの展望台は、午前四時、まだ、真っ暗であるにもかわらず、すでに多くの人で溢れかえっていて、周りの景色を見ることのできる場所が見つからない。散々歩き回って、ようやく一人分のスペースを見つけると、冷たい鉄製の手すりに寄りかかり、夜が明けるのをじっと待った。