楓の間の襖を開けて絶句した。そこに伊藤医師がいたのである。テーブルに山と料理を盛り上げ、頬杖をした伊藤医師がにやにやと嗤っていたのだ。何故彼がここにいるのか解らなかった。一瞬夢ではないのかと疑ったくらいだった。
「やぁ、久し振りだね、君も元気そうで何よりだ、まぁこっちへ来て座りたまえ」
骸骨は伊藤医師の目に吸い寄せられるかのように中へ入っていった。そして茫然と彼の顔を見つめたままペタリと腰を降ろした。
「君もなかなかの役者だな、人間の振りをしてこんな所へ潜りこむなんて、大したものだぜ、拍手を送りたいくらいだ」
彼はにやにやしながら、そんなことを言った。
「ド、ドウシテ‥‥ココニ?」
やっと口から出たのはそんなことばだった。
「君のことなら何でも知っているさ、友達だからな、そうだろ?」
「デ、デモ、ナ、何故‥‥何ヲシニココヘ?」
「おい、そりゃないだろう、君に会いたくてはるばる来たんだぜ」
そう言うと今度は凄味のある笑みを浮かべた。骸骨はその目の色に竦んだようになった。まるで蛇に睨まれた蛙も同然だった。
「実はね、いい報せを持ってきたんだ」
次回更新は3月21日(金)、11時の予定です。
【イチオシ記事】ずぶ濡れのまま仁王立ちしている少女――「しずく」…今にも消えそうな声でそう少女は言った
【注目記事】マッチングアプリで出会った男性と初めてのデート。食事が終わったタイミングで「じゃあ行こうか。部屋を取ってある」と言われ…
【人気記事】「また明日も来るからね」と、握っていた夫の手を離した…。その日が、最後の日になった。面会を始めて4日目のことだった。