せっかくひとりで静かに祈りを捧げていたのに、洗濯ものをごっそり籠に積んで、まだ子供のくせにお母さんみたいな顔をしてひょっこり現れた彼女を見て、彼は少しげんなりした。洗濯ならもっと下流の広い所でやれよ。と思ったけれど、家のお手伝いをせっせとやっている子に対して言う言葉ではない気がして、黙っていた。

こちらのことなどお構いなしに、どっしりと腰を据えて豪快に衣類を洗いはじめた彼女に、彼はちょっと笑ってしまった。  

彼の知っている女の子達は(といってもドゥモが知っている女の子といえば、ブライト・アイとハミングアロー、それにグレープ・バグを除けば、ほんの数人に過ぎない。でもね、テントウ虫ちゃん。彼にとっての数人はとても沢山ってことだ!)少しばかり年端がいかなくてもおませにできていて、特に異性から自分がどんなふうに見えるかということに関しては、リスを追っかけて喜んでいるような同い年の男の子達には想像もつかないほど、早いうちから目覚めるものだ。

実際、洗濯をしに川にやってきて、彼や彼の仲間達が近くにいると察した女の子達が、座り方を変えたり、まだ仕事が終わってもいないのに、髪の毛をいじくりだしたりするところを、彼は何度も目撃していた。なのにハミングアローときたら。まだ年頃でないとはいえ、男がいる前であんなに中腰になって、ガニ股で水の流れの中を踏ん張っているんだから。

向こうがこちらに気を使わないのをいいことに、彼も気兼ねせずふんどし一枚になって、少し距離を置いたところで泳ぐことにした。祈りの時間を邪魔されてひどく気が散ったと思った彼は、いっそのこと気分を変えて、くたくたになるまで泳いでから帰ろうと決めたのだった。

ドゥモは潜水が得意でね。それはもう長いこと潜っていられるんだ。水の中の世界で見る石は、地上で見るときとは随分違って見える。それらを一つ一つ鑑賞してまわっているうちに、息継ぎの回数が自然と減っていったんだね。

随分時間が経って息が持たなくなると、ドゥモは一気に水面に浮上した。彼の長髪が凄い勢いであたりに水しぶきを撒き散らし、驚いたことに、いつの間にか彼の背後まで来ていたハミングアローを水浸しにしてしまった。

その時だったんだよ。初めて本当に彼女を見つけたような気がしたのは。水しぶきを浴びたハミングアローは、美しかった。

 

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