【前回の記事を読む】真っ赤に染まった部屋にある震える女性の姿。「嘘を吐いたら切ります」夫人がうめいた瞬間、舌を捉えていた鋏がショキと小気味よい音を立て―
創作実話 沢市 さとみ
隣に住む女子大生・飯島里香さんがくれたクッキーをほとんど一人で食べながら、篤は私の妄想に評価1 を付けた。
「想像してしまわない?」
「しまわない」
指をうねらせ、お化けを表現する私に篤は即答する。カメラが篤にピントを合わせると、隣で無念そうな私の顔がぼやけていることだろう。
「怖がりのヤツほど妄想力逞しいんだ。この世のホラー演出は奈月みたいに日常でお化けの姿をずっと探してる人が作るんだよ」
心外だ。ホラーが好きでノウハウを熟知した人間が作っているに決まっている。
「それに最近のホラーは」
クッキーの粉を落とす篤の指が得意げに踊る。篤は理屈っぽいので、心霊の類いを信じないし、茶化すばかりで楽しもうとしない。ホラーはすべてミステリーの範疇だと吹聴する。
「ミステリーだ」
「きたー」
「え? 何が?」
「ううん、こっちの話。続けて」
「大抵のものごとには原因がある。人が原因で人が死んで、原因を解明すれば物語は解決する。最近はそんなホラーばかりだ。犯人を逮捕して終わる刑事モノと変わらないよ」
私は篤ほど雄弁ではなく、学もない。何かひとつくらい小気味よく言い返したくなるが、ただ悔し紛れに唸るのが関の山だ。こういうときの私は、第三者を味方につけようとする。昼間会話した引っ越し業者の青年の神妙な顔が降臨した。