【前回の記事を読む】「もう一度その男性に逢いたいの。その男性とのひと夏の思い出がほしいの。…彼氏は居るけど、その男性に出逢ったとき…」

第二章 因島

山間の国道三百十七号線を快適に飛ばし、来島海峡の三連吊りの橋を渡る。しまなみ海道は快適だった。裕子の運転テクニックも上級である。エアコンを効かしジャズを流して楽しそうなふたりだった。プライベートのドライブは初めてのふたりである。

しまなみ海道の風景や橋を見る旅でない。ある男性に逢うという目的がある。ありふれた男性じゃない、すくなくともいままで出逢ったことのない男性である。その男と出逢った多々羅しまなみ公園のイベント広場が右手に見える。それが数日前のことである。ふたりの前に突然現われたすてきな男性。

生口島にはいったが、すぐに島は通りすぎる。午前十一時にふたりは生口橋の高台に到着した。前方に因島が見え、右下の遠方に見える○○造船所が一望された。

「むこうに見えるのがたぶん○○造船所ですよ。外側に白い船が見えるわ」

「そうですか」

裕子は一度車を停めると、双眼鏡を手にした。

「白い巡視船が見えるわ……たぶんそうでしょう。煙突は青いし、日の丸の旗がうしろにあがっているわ」

「巡視船ですね。『あきづ』にまちがいないですか?」

「たぶん『あきづ』と思いますわ」

名前は確認できないけど白い船は巡視船なのと裕子は言っていた。高校生のころ松山市の港にある海上保安部の近所に遊びに行ったことがあったので、巡視船が白いことを知っていた。煙突にコンパスマークがあることも知っていた。だから巡視船にまちがいはないと思っていた。

「あの造船所に行ってみましょう。きっとあなたの言う男性が乗っている巡視船『あきづ』にまちがいはないわ」

「そうですか。じゃ行きましょう」