【前回の記事を読む】ドライブは初めてのふたり。ただ風景を見る旅ではない。ある男性に逢うという目的がある。「ひと夏の恋心なの」「恋心、恋ねえ…」

第二章 因島

つなぎの作業服を着ているが、まちがいはない。あの日あのときはTシャツとスパッツだったが今回は仕事用の青い作業服。あの顔だち、あの太い腕が十分に確認される。仲間となにか話している様子でとき折見せる白い歯。

「裕子さん……作業服だけどあのときの顔よ」

「そう……早くおりて声をかけなさいよ。恵利子さんがんばって」

「……」

「早くしないと行ってしまうのよ。ほらどうしたのよ」

青木と確認しただけで胸がつまっていた。どうしよう、言葉がでない。なにを話せばいいのかしら。目の前にして戸惑っていた。

「ごめんなさい裕子さん。心の準備をしていても、いま言いだせない。どうしよう」

「どうしようって……わたしにもわからないわ」

ほんとうに心が乱れていた。なにを言いだせばいいか思いもよらなかった。

「ごめんなさい。裕子さん、夕方までに心の準備をしますわ。夕方までおつきあいいただけますか?」

恵利子さんどうしてどうして。目の前を歩いていっているじゃないの……逢いたい一心でやっと見つけた造船所なのに……無理もないのかなあ。しかたないけどそうしてあげるべきか。

「特に予定はないけど……」

「じゃ、お願いするわ」

ふたりともそろって歩いている反対側の歩道を見ている。裕子は思っていた。なるほどおおきい。身長は百九十センチ近くあるのだろう。それに恵利子さんが言うようにハンサムである。腕も太い、枠からはみだしているような感じだった。しかし、気になる歳はどれくらいなのだろうか。わたしたちより上なのはわかっている。世間でよく言われる充実した歳なのだろうか。