「昼休みにきっと造船所からでてドックハウスに食事に行くわ。そのときがチャンスよ。愛を打ち明ける勇気はできているの」

「まだまだそんなことは考えていないわ。すこしお話がしたいのよ……彼がいるのよ。ひと夏の恋心なの」

「恋心、恋ねえ、そうですか。じゃふたりで確かめましょうよ」

「はい」

裕子は車を走らせて因島に入った。瀬戸内自動車道をおりて一般道に入った。生口橋の下を走る。まもなく目的の造船所が右手に来る。裕子は車のスピードを落としゆっくり国道を走らせた。

「ここが○○造船所ですよ。ほら正門がここよ」

「ああ……ほんとうだ。いよいよですね」「いよいよなんて他人事を言っていたらだめよ」

「はい、すみません」

ふたりは造船所の正門を確認した。すこし通りすぎて車をUターンさせて正門の横にある郵便局付近に停止した。幸い駐車禁止標識はない。駐車違反でなく、ほかの車が渋滞する原因になることもない。この位置からは正門からでてくる人は見える。裕子は双眼鏡を用意している。

「この場所が適当と思うわ。正門からでてくる人は十分に確認できる」

「そうね……」

「しっかり見ていてくださいね」

「はい、わかりました」

恵利子はため息をついていた。次第に鼓動が激しくなっていた。ほんとうに現われたらどうしよう、なにを言えばいいの。心の準備となん回も言いきかせながらあせっていた。

午前十一時三十分ころに青いつなぎの服を着た数人の男が造船所の正門からでてくる。全員黄色のヘルメットを被っている。なかにはヘルメットを脱いでいる男性もいる。

裕子は言った。

「ねえ、あの男性は違うかしら」

「どうでしょうねえ。ここの造船所に勤めている男性かも知れないし、でも背がちいさいわ。その男性はすくなくとも一八〇センチ以上あるのはまちがいないわ」