【前回記事を読む】「人はなぜ山に登るのか」記憶を頼りに山を登ると見えてくる、社会・宗教・国家。登れば感じる様々な思いの数々―
第1章 日本民族及び国家の成立
私の国家観は基本的に民族及び統治体制に依拠している。従って、前段に日本民族、後段に国家の成立を概説する。
第1節 日本民族
大多数の国は複数民族で構成されていて、単一は珍しい。歴史的に日本が最大の影響を受け続けてきた隣国の中国は、50以上の民族によって構成される代表的な複合多民族国家である。一方で朝鮮は単一民族である。
民族の定義を概略すると、「伝統的な文化、生活様式を共通に持つ集団」とされ、更に「意識の存在」が重要といわれる。文化的指標として、土地、血縁、言語等の共有意識や宗教、神話、世界観、社会組織、経済生活等が選択される。いずれにしても、明確な基準で定義することは至難である。
一つ確然としているのは、この列島に住みついた民族は自然界の諸事物に霊魂、精霊等の存在を認めて、それらを信仰するアニミズムの宗教観を持っていたといえる。いわゆる、多神教である。則ち、霊的存在を強く意識している民族(集団)を権力保持者が、祭祀の主催を兼ねて統治していたものと考えられる。
初期の祭政一致の統治制度が、後に日本独自の天皇制及び神道へと発展していく起源となる。一般に古代諸文明には祭政一致制度が存在し、政治と宗教の分離は難しい統治上の課題で、日本でも法的制度として維持された。後述するように、二大宗教とされる固有の神道と外来の仏教が主役を演じ続けた。
一体、日本人はどこから来たのか。ルーツに定説はない。
一方、人種としてはモンゴロイドとされる。いつの時代かは同定しがたいが、想定以上の前から渡来し、住み始めたようだ。アメリカ先住民が2、3万年前にユーラシア大陸から北米大陸に移動していたこと等から比定すれば、遅くとも3万年以前には大陸の突端に辿り着いた複数の集団も海洋を前にして、持続的に新天地の日本列島渡来の機会を狙っていたに違いない。